昨日の夜、彼女の部屋で起きた出来事が頭から離れなくて、ちょっと整理がてら書き殴らせてほしい。
付き合って1年になる彼女がいる。ルナっていうんだけど。 同い年で、普段は都内で普通の事務職やってる。残業も文句言わずにこなすし、俺から見ても根が真面目すぎるくらい真面目なタイプだ。 家に行っても、本棚には小説とか仕事関係の自己啓発本がズラッと並んでるし、部屋着も色気のないスウェットとかが基本。休日は近所のカフェで本読んでるような、いわゆる清楚系ってやつ。普段は黒縁のメガネかけてて、それもまたお堅い雰囲気を出してる。
俺の前でもあんまり下ネタとか言わないし、そういう話になるとちょっと顔赤くして話題を変えようとする。 ただ、俺は知ってるんだよな。ルナのベッドの下の箱の中に、Amazonで衝動買いしたであろうアレやコレ(結構ハードなやつ)が隠してあるのを。 見つけた時はマジでビビったけど、本人はひたすら隠してるつもりみたいだから、俺も気付かないフリをしてる。そういう「むっつり」なギャップがたまらなく好きなんだけど、昨日はそのギャップのせいでマジで気が狂うかと思った。
土曜の夜。ルナの部屋で夕飯食べて、ふたりで狭いベッドに寝転がりながらスマホいじってた時のことだ。 部屋は間接照明だけで薄暗くて、ルナは俺の腕枕でゴロゴロしてた。 いつもならそのままウトウトして寝ちゃうか、ちょっとイチャイチャして終わる流れなんだけど、昨日のルナはやけにスマホの画面を見つめたまま、小さくため息をついてた。
……ねえ
いきなりルナがぽつりと呟いた。
ん?どうした?仕事でなんかあった?
俺がスマホから目を離して聞くと、ルナはちょっと言い淀むように唇を噛んだ。
仕事じゃないんだけど……凛(リン)のことなんだけどね
リンってのはルナの大学時代からの親友で、ルナとは正反対のちょっと派手めな子だ。何度か俺も会ったことがある。確か半年くらい前に、何年も付き合ってた彼氏に浮気されてドロドロの別れ方をしたって聞いてた。
リンちゃんがどうしたの?また元カレから連絡きたとか?
ううん、違うの。あのね……最近リン、すごく綺麗になったの
へえ、いいことじゃん。新しい彼氏でもできたの?
……それがね
ルナはそこで言葉を区切って、俺の顔をじっと見た。メガネの奥の目が、なんだか妙に真剣というか、戸惑ってるような色をしてた。
彼氏じゃないの。……あのね、リン、最近アプリで男の人と会ってるんだって
アプリ?ああ、マッチングアプリか。まあ今時普通でしょ。それでいい人見つけたんだ
ううん。マッチングアプリじゃないの
え?
……出会い系
ルナの口から「出会い系」なんて単語が出たことに、俺は一瞬フリーズした。
出会い系って……あの、昔からあるような?
うん。リンが使ってるの、ハッピーメールってやつらしいの
ハッピーメール。通称ハピメ。 ネットやってる男なら誰でも一度は広告を見たことがあるだろうし、名前くらいは知ってる。俺も独身時代にちょっと覗いたことがある(収穫はなかったが)。 でも、それをルナの口から、しかも親友が使っているという文脈で聞かされるとは思わなかった。
マジで?リンちゃんがハピメ?いや、なんか出会い系って業者の温床みたいなイメージあるけど大丈夫なの?
俺がそう言うと、ルナはスマホを置いて、俺の胸にすり寄るように顔を近づけてきた。
私も最初そう思ったの。リン、元カレに振られて自暴自棄になってるんじゃないかって。危ない目に遭うからやめなよって怒ったんだよ。でもね、リンが言うには、全然違うんだって
違うって?
今って、ハッピーメールみたいな出会い系アプリのほうが、普通のマッチングアプリよりずっと割り切った関係の人が多いらしいのね。リン、元カレとの別れで『もう面倒な恋愛はしたくない』って思ってたみたいで
ルナの声が、いつもより少し低くて、どこか熱を帯びているように聞こえた。 俺は心臓がバクバク言い始めるのを感じながら、平静を装って相槌を打った。
へ、へえ。恋愛が面倒だから、出会い系?
うん。普通のマッチングアプリだと、いいねして、マッチングして、何日も何週間もメッセージのやり取りして……お互いの趣味とか仕事探り合って、やっと会って、みたいなのが基本でしょ?リン、それがもう疲れるって
まあ、確かに面倒だよな、あれ
でしょ?でもハピメだと、『今日飲める人』とか『今から会える人』みたいな掲示板があって、そこから直接メッセージ送れるんだって。だから、その日のうちにあっさり会えちゃうらしいの
ルナが「あっさり会えちゃう」と言った瞬間、俺の脳内に勝手な妄想が広がった。 あの派手でスタイルのいいリンちゃんが、見ず知らずの男とその日のうちに会って……。
……会って、どうするの?
俺は恐る恐る聞いた。ルナは少し顔を赤らめて、俺のパジャマのボタンを指で弄りながら答えた。
だから……その、飲むだけじゃないみたい
マジか
うん。リン、私に全部話してくれたんだけど……信じられないの。あのリンが、出会ったその日にホテル行ったりしてるんだって
ルナの口から「ホテル」という単語が出た。 普段はエッチの最中すら「恥ずかしいからあんまり見ないで」って言うようなルナが、親友の生々しいリアルな事情を俺に語っている。この状況がたまらなくエロくて、俺の下半身はすでに反応し始めていた。
リンちゃん、そんなことになってたのか……。でも、相手はどんな奴なんだ?変なおっさんとかじゃないの?
私もそう聞いたの。でもね、全然違うんだって。普通のサラリーマンとか、なんならちょっと年下の大学生とかも普通にいるらしいよ
へえ……
リンが言うにはね、男の人も『面倒な駆け引きなしで、ただエッチしたい』って思ってる人が多いから、利害が一致するんだって。お互い名前も本名教えないし、仕事の深い話もしない。ただ一緒に飲んで、ホテル行って、激しくして……朝には『じゃあね』って別れる。それが今のリンにはすごく楽みたい
ルナはまるで、自分が体験してきたかのように熱っぽく語った。 俺は「激しくして」というワードに脳がショートしそうになった。
リン、この前はね……
ルナがさらに声を落とす。
出張で東京に来てる既婚者の営業マンの人と会ったんだって
既婚者!?
うん。リンも最初は既婚者はちょっと……って思ったらしいんだけど、相手が『奥さんとは完全にレスで、でも性欲だけはどうしようもなくて。ただ割り切って抱かせてくれる子を探してる』って正直に言ってきたんだって
……それで?
リンも、その日はむしゃくしゃしてて、とにかく誰かに強く抱かれたかったんだって。だから『後腐れなしならいいよ』って返事して、新宿の居酒屋で待ち合わせして……。そしたら、すごくスマートな人で。1時間くらい軽く飲んだ後、自然に手引かれてホテル入ったんだって
ルナの息遣いが、少し荒くなっているのがわかった。 ベッドの中で俺にくっついているルナの体温が、さっきより明らかに上がっている。
ホテル入ったら、その人、ずっと溜まってたみたいで……すごく激しかったらしいの。リン、久しぶりだったから最初は痛かったけど、途中から頭真っ白になるくらい気持ちよくなって、気付いたら何回もイっちゃってたって……
ルナはそこまで一気に喋って、ハッとしたように口を噤んだ。
あっ……ごめん、私、変なことまで話しちゃった
いや……全然いいよ。俺も男だし、そういう話は嫌いじゃない
俺は必死で喉の渇きを堪えながら答えた。
でも、ルナはリンちゃんの話聞いてどう思ったの?
俺が尋ねると、ルナは俺の胸から顔を上げて、真っ直ぐに俺の目を見た。
最初はね、軽蔑じゃないけど、リンおかしくなっちゃったんだって思った。でも……
でも?
リンの顔、すごくスッキリしてて、女の私から見ても色っぽかったの。満たされてるっていうか。……それで、私、リンに聞いたの。『怖くないの?』って
そしたら?
リンは笑って言ってた。『全然。むしろ、知らない人だからこそ全部曝け出せるんだよ』って。『ルナも、彼氏いるけどさ……たまには違う刺激、欲しくならない?』って言われちゃった
ルナの言葉に、俺は心臓が止まるかと思った。
ル、ルナは……なんて答えたの?
ルナはふいっと目を逸らして、俺の胸に顔を埋めた。
『私には無理だよ、彼氏いるし』って答えたよ。……でもね
うん
リンがアプリの画面見せてくれたの。そしたら、ほんとにいろんな人がいて。『今日疲れてるから、優しく癒してほしい』とか『とにかく激しくエッチしたい気分』とか、みんな自分の欲求を隠さずに書いてるの。それ見てたら……なんだか、すごく不思議な世界だなって思って
ルナの指先が、俺の胸板をゆっくりと撫で始めた。 無意識なのか、わざとなのかわからない。でも、その小さな手が震えているのだけはわかった。
私みたいな……普段真面目に仕事して、彼氏とも普通に付き合ってて……そういう女でも、女の子だって、本当は心の奥底に『ただ獣みたいにめちゃくちゃにされたい』みたいな欲求って、あるじゃない?
……うん
リンはそれを、ハピメで解放してるんだなって。名前も知らない、明日には会わないかもしれない男の人に、自分のカラダ全部委ねて、ただ気持ちよくなることだけを考える……。それって、どんな感覚なんだろうって、ちょっとだけ想像しちゃったの
俺は息を呑んだ。 ルナのベッドの下にある、あのおもちゃ箱の存在が脳裏をよぎる。 この清楚で真面目な彼女は、俺の知らない夜に、ひとりで何を感じて、何を妄想しているんだろう。そして今、親友のハッピーメールの体験談を通して、彼女の中の「開けてはいけない蓋」が少しだけ開いてしまったんじゃないか。
……想像して、どうだった?
俺の限界まで低い声が出た。 ルナは顔を埋めたまま、小さく答えた。
……すごく、ヤバかった。リンがホテルでその既婚者の人に押し倒されてるのを想像したら……私まで、変な気分になっちゃって。……今も、ちょっと……
そこまで聞いた瞬間、俺の中で張り詰めていた理性の糸が完全にブチ切れた。
俺はルナの肩を掴んで、強引にベッドに押し倒した。 仰向けになったルナは、メガネの奥の目を潤ませて、少しだけ怯えたような、でも期待に満ちたような顔で俺を見上げていた。
ルナ、お前……自分が今、男の前でどんな顔してどんなこと言ってるか分かってる?
……わか、らない……でも、なんか、おかしくなりそうで……
ルナの唇が微かに震えていた。 俺はもう何も言わずに、その唇を塞いだ。
その後のことは、ここに詳しく書くのは自粛する。 ただひとつ言えるのは、付き合って1年、あんなに激しくて、ルナが泣き叫ぶくらい何度もイッたのは初めてだったってことだ。俺も頭がおかしくなるくらい最高だった。
ハッピーメール。リンちゃんがそこでどんな男とどんなことをしているのか、本当のところは俺には関係ない。 でも、その存在が、俺の真面目な彼女の隠された扉を完全にぶち壊してくれたことだけは間違いない。
俺は今、ルナが仕事に行っている間にこれを書いている。 昨日の夜のルナの顔を思い出すだけで、またヤバいことになりそうだ。 とりあえず、出会い系アプリってのは、当事者じゃなくても周りの人間を狂わせるくらいの破壊力があるってことだけ、ここに書き残しておく。 今日の夜、ルナが帰ってきたら、昨日の続きをまたたっぷり聞かせてもらうつもりだ。 ベッドの下のおもちゃも、今日は全部使ってやる。